ロサンゼルス港など米西海岸の港、一転閑散の訳(The Economist) - 日本経済新聞
/

米西海岸の港、一転閑散の訳(The Economist)

それは「クリスマスを救ったツイートの嵐」と称された。2021年10月、米西海岸の港がコンテナで埋め尽くされ、積み荷を陸揚げできない貨物船が沖合に多数停泊していた。

米物流会社フレックスポートのライアン・ピーターセン創業者兼最高経営責任者(CEO)は、問題の所在を突き止めるために、米国最大の港湾複合施設へボートで視察に出た。

その結果、隣接するロサンゼルス港とロングビーチ港は主にスペース不足で停滞状態に陥り、空のコンテナを運び出せずにいることが判明した。そこでツイッターに一部始終を続けざまに投稿し、「このボトルネックを克服しなければならない」と対応を呼びかけた。

一連のツイートが拡散されると、政治家が動いた。ロングビーチ市はコンテナを積み上げる高さの制限を緩和した。モノが再び動き出し、サンタクロースは安堵のため息をついた。

ロサンゼルス、ロングビーチ港で輸入量急減

本誌(The Economist)の筆者も最近、同じように船での視察に出かけた。そこで目にしたのは、クリスマス前のにぎわいではなく、以前とは違う不気味な停滞だった。

今回のその原因は貨物の過剰ではなく、不足だった。ロサンゼルス港に停泊していたコンテナ船はわずか4隻で、21年にはその3倍以上あったはずだ。

港湾労働者も船の乗組員もほとんど見かけなかった。クレーンは、まるでチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」に登場する幽霊のように、ひっそりと立っていた。沖合に停泊しているのは、古めかしい2本マストの帆船だけだった。

この静けさは、通常米国の輸入の37%を受け入れるカリフォルニア州南部の2港で貨物量が激減している表れだ。ロサンゼルス港は14日、11月の輸入量が前年同月比で24%減少したと発表した。ロングビーチ港もこのところ同じような状況に見舞われている。

この問題をビジネスの観点からとらえると、インフレの行方や労働者の交渉力、米国の経済地理学的な変化について興味深い疑問が生じる。

このテーマを議論するのに、デーブ・クラーク氏はうってつけの人物だ。今年前半まで米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムで物流部門のトップを務め、世界最大級のサプライチェーン(供給網)を構築した同氏は9月、フレックスポートに共同CEOとして入社した。

「サプライチェーンオタク」を自称するクラーク氏は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下で多くの米企業にとって重要性が示された港は「国の宝である」と熱弁を振るう。

「巡回するトラック、満杯のコンテナヤード、入港待ちで停泊している多数の船を眺めると、米経済の力が目に見えるようだった」という。

ただ、それは事がうまく運ばない場合の経済的リスクを目の当たりにさせるものでもあった。サプライチェーンの目詰まりは、緩和的な金融政策、財政出動、今年のウクライナ情勢とともに、パンデミック下でインフレの高進を招いた。

船便のキャンセル続出

しかし、このボトルネックは突如として解消された。2港への入港待ちの船は、1月の109隻から6月には20隻に減り、ここ数週間はごく少数にとどまった。

クラーク氏によると、仕入れを増やしたがっていた輸入業者が4~6月に入ると突然、過剰在庫を懸念するようになった。そして注文のキャンセルを急いだという。

フレックスポートによれば、その結果ここ数カ月で記録的な数の船便がキャンセルされ、コンテナ船運賃はパンデミック前の水準に急落し、船主は絶頂からどん底へと突き落とされている。

コンテナ船世界的大手、デンマークのAPモラー・マースクは12日、「ますます困難になる」時期のかじ取り役を担う新CEOを任命した。同社の株価は3月から大幅に下落している。

サプライチェーンへの圧力が和らいだことにより、モノの価格の上昇が落ち着いている理由は説明がつくかもしれない。しかし、個人消費に占めるモノの割合は3分の1にすぎず、3分の2をサービスが占める。

また、クラーク氏が指摘するように、港湾労働者、トラック運転手、倉庫作業員などの人手不足は、サプライチェーンにおける人件費の高止まりにつながる。「米国内の労働コストに変動はない。人員削減の大部分はホワイトカラーが対象であって、現場の作業員ではない」という。同氏はこれらの理由から、インフレの脅威は終わっていないとみている。

賃金上昇の可能性をさらに高めているのが、労働組合の交渉力だ。パンデミックの間、海運や鉄道会社などの雇用主が記録的な利益をあげる一方で、労働者はモノの流れが滞らないよう一層力を注いできたため、組合の交渉力は強まっている。

労働協約の失効が影

ロサンゼルス・ロングビーチ港ではそれが現実味を帯びている。国際港湾倉庫労働組合が海運会社や港湾業者と労使契約の更改交渉に臨んでおり、契約のない状態で運営が続いている。労働協約は7月1日に失効した。

労使双方がストライキやロックアウトはないと主張している。だが、先ごろ鉄道労働組合がストをちらつかせ、上院でも今月1日どうにか回避するための法案を可決させた経緯もあって、労使紛争への懸念は強まっている。

組合側が最近の利益の分け前を要求し、企業側が今後の損失に身構えているとすれば、交渉はますます難航することが避けられなくなる。

クラーク氏は「激しい」労使交渉が続くと予想する。ただ、輸入業者らはさらに壊滅的な事態が起きる恐れを感じ取っている。パナマ運河を経由するとコストも時間も余計にかかるにもかかわらず、労使紛争が悪化するとの心配から、多くの企業が仕向け港を西海岸からメキシコ湾岸や東海岸に切り替えている。

今年の夏の終わりに、ロサンゼルス港が22年間保持した米国内で最も多忙なコンテナターミナルの座をニューヨーク・ニュージャージー港に明け渡したのは、これが大きな理由だ。

脱中国でアジアからの供給が米東海岸へシフト

追い打ちをかけるように、アジアのサプライチェーンが中国から東南アジアや南アジアなどの新拠点にシフトし始めている。こうした地域からは、スエズ運河経由で米東海岸に輸送される貨物が増える傾向にある。

この経済地理学的な変化は著しい。それでも、クラーク氏は西海岸の復活を信じている。「人の記憶は短く、通常はコストが優先される」からだ。

米経済は23年に悪化してから改善に向かうと同氏はみているが、貿易はいずれパンデミック前の水準に戻ると確信している。グローバル化もしかりだ。

そうであるならば、ロサンゼルスやロングビーチなどの港はクリーン化や自動化を図り、将来に備えなければならないだろう(ただし、テクノロジーは労働生産性を「高める」ものであって、労働者に取って代わってはならないとクラーク氏は主張する)。カリフォルニアでは、楽観的な開拓者精神がいまもまだ失われてはいない。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. December 17, 2022 All rights reserved.

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません