[社説]巨大ITは停滞期こそ社会的責任果たせ

米巨大IT(情報技術)企業の業績が停滞している。過去10年以上にわたって驚異的な成長を支えてきた本業が伸び悩んでおり、経営の効率化を急いでいる。
巨大IT企業は、経済や社会のデジタル基盤(プラットフォーム)を担う事業を展開する。経営陣は自社の業績回復だけに集中するのではなく、社会的な責任にも目を配る必要がある。
各社が発表した2023年1〜3月期決算は、アップルの売上高が前年同期比で3%の減収だった。マイクロソフト、グーグル親会社のアルファベット、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックを運営するメタの増収率は1ケタ台にとどまった。
創業以来、成長をけん引してきたアルファベットやメタのネット広告事業、アマゾンのネット通販サービスといった本業の伸び悩みが目立つ。景気減速などの影響も大きいが、主力事業の成熟化という構造的な課題がある。
まず各社には、業績回復を急ぐあまり、プラットフォームの信頼性を損なうことがないよう注文したい。イーロン・マスク氏が昨年買収したツイッターでは、同氏が急速に進めたコスト削減でサービスの質の低下が懸念されている。リストラのあおりを受け、各社の製品・サービスの安全性や利便性が犠牲になるようでは困る。
巨大ITが守りに転じることで、それぞれの主力事業が寡占を強めかねないことにも注意が必要だ。自社の利益を優先して競合他社を締め出したり、プラットフォームを利用する事業者らに不利な契約を強いたりする懸念はないか。各国の規制当局は今まで以上に監視を強めるべきだ。
既存事業が伸び悩むなか、マイクロソフトなどは人工知能(AI)への投資を増やしている。なかでも精緻な文章や画像などを作り出す生成AIは、デジタルサービスを一変させる可能性がある一方、偽情報をまん延させかねないといったリスクも抱える。
こうしたAIに社会がどう向き合うべきかの議論も道半ばだ。目先の利益を優先するだけの拙速な事業化は避けるべきだ。
テクノロジー産業はこれまで、新陳代謝を加速する役割をスタートアップが担ってきた。巨大IT各社の停滞が鮮明になっているからこそ、日本を含めた世界の起業家に、その間隙を突く革新を期待したい。