戻してはいけない「日常」は何ですか？

5月8日から、日本は新しい一歩を踏み出します。3年強にわたって私たちを苦しめ、悲しませてきた新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行しました。ただ、ウイルスの性質が変わるわけではなく、これからも感染する恐れがあるのは変わりありません。それでも、いろいろな制約が解かれ、生活の自由度は高まります。さて、読者の皆さんは、息苦しかった時期に何を思い、この新しい日常の景色を見て何を感じているでしょうか。自分で考えて、問いを立ててみて下さい。

最近、「コロナ前に戻った」という話をよく耳にします。果たしてそうなのでしょうか。確かに昨日までの大型連休でも全国の観光地や商業地に多くの人流が戻ってきていたのは間違いありませんが、単純に人流が「戻った」わけでは無い気がします。海外からの旅行者は日本を訪れて物見遊山（ものみゆさん）的な観光だったものから、最近は体験・経験型へと関心が移っています。

学校も職場にも仲間が戻ってきましたが、学び方も働き方もコロナ前とは違っています。デジタル技術を活用してリモートとリアルを融合したハイブリッド型の学びや、職場では対面ならではの濃いコミュニケーションを重視した空間を作ろうとしています。学校も職場も新しい雰囲気、環境を整備して、生まれ変わりつつあります。

私たちは、コロナ禍の3年間でいろいろなことを深く考え、実行してきたはずです。公衆衛生への関心の高まり、社会として感染を防ぐための仕組み作りや意識改革の醸成など地道に取り組んできました。地球規模の感染は私たちがグローバルな社会に身を置いていることも認識したはずです。世界の願いはコロナ前に「戻ろう」とするためのものではなく、コロナの先へと時間を進め、より良き社会の実現のための決意だったのかもしれません。地球温暖化問題、SDGs（持続可能な開発目標）など、持続的な社会に向けた行動は待ったなしです。

試練はコロナだけではありません。昨年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、平和な日常がいかに脆（もろ）く、各国や世界機関が努力してもまだ和平にまでたどり着けないむなしさを突きつけています。私たちはウクライナに思いを寄せ、単に戦前に戻すのではなく、新たな国際社会へと作り直さないといけません。深く考えることで世界を変えていくことは可能だと考えます。単に「戻る」だけでは、紛争の火種は燻（くすぶ）り続けることは歴史を紐（ひも）解けば明らかです。

コロナ禍やウクライナ戦争などが複雑に絡み合い、経済を混乱させ、急速な需要の増加はインフレーションを加速させ、私たちの生活を脅かしています。いままでデフレ経済に慣れていた我々は戸惑いを隠せません。適度な物価上昇は経済の成長のためには必要ですが、バランスが大切です。

そこで読者の皆さんにお願いがあります。「戻してはいけない『日常』は何ですか？」についての意見やアイデアをお寄せください。目を閉じて、いろいろと思い浮かべることもいいかもしれません。この3年間を無駄にしない、未来につなげる投稿を期待しています。（編集委員　田中陽）

2023年度の未来面のテーマは「今、私が伝えたいこと。」です。未来面はこれまで読者や日本を代表する企業・団体の皆さんと一緒に、日本や世界が直面する課題について考え、議論しながらつくってきた紙面です。今回のテーマには、課題を出す側、アイデアを出す側双方が自分の「伝えたいこと」を前面に出しながら、活発な意見を戦わせ、未来につながるよりよいアイデアが生まれるように、との思いを込めています。

今年度も企業・団体のトップが、身の回りで感じられることから、全人類が考えなければならないことまで、幅広い課題を投げかけます。ぜひ、斬新なアイデアをお寄せください。お待ちしています。

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未来面の新シリーズ「今、私が伝えたいこと。」が始まりました。第1回の課題は「戻してはいけない『日常』は何ですか？」です。400字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは5月17日（水）正午です。優れたアイデアを選んで29日（月）付の未来面や日経電子版の未来面サイト（https://www.nikkei.com/business/mirai)で紹介します。アイデアは日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご投稿ください。