[社説]コロナなき日常を慎重に取り戻そう
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが8日、季節性インフルエンザと同じ「5類」に変わる。この3年、社会・経済活動に多大な影響を与えてきた様々な対策がほぼ終わる。コロナ前の日常を着実かつ慎重に取り戻したい。
政府は1月末に5類移行を決定、その後、マスクの着用は個人の判断に委ねられ、水際対策もなくなった。訪日客は増え、観光地などの人出も回復した。企業活動もコロナ前の状態に戻ってきた。世界保健機関(WHO)も緊急事態宣言の終了を発表した。
今、留意すべきなのはウイルスはまだ「終息」していないということだ。4月半ばごろから新規感染者数は下げ止まり、増加傾向に転じつつある。次の流行がこの冬の「第8波」を超える恐れを指摘する専門家もいる。再び流行が広がった際、人々の行動を制限したり、経済活動が停滞したりする事態があってはならない。
厚生労働省による毎日の感染者数の公表がなくなる。「全数把握」から「定点把握」へと変わり、週1回の発表になる。流行期には個人が感染対策をとれるように、国はウイルスの動向を把握し国民に伝えてほしい。
コロナ医療も平時に移る。症状がある人は発熱外来ではなく、かかりつけ医などで診てもらう。診療拒否などで検査や治療を受けられないのは困る。入院調整でも手間取ることがないよう、国や自治体は医療体制が万全かどうかを点検する必要がある。
日本のコロナ対策を振り返ると幾つもの課題が明らかになった。当初、検査体制が不十分だった。海外に比べ病床数に恵まれた医療も感染症には脆弱で、流行が急拡大するたび逼迫を繰り返した。ワクチンも国産化できず海外からの調達に莫大な国費を使った。
感染症対策の司令塔機能を巡って政治や専門家、国と自治体との役割が明確でなく、混乱を招いた。その反省から今秋、「内閣感染症危機管理統括庁」が新たにできる。状況が刻々と変化するなか、省庁の垣根を越えて迅速かつ柔軟に対応できるかが問われる。
今後、政府や国会が中心となり3年間のコロナ対策を客観的かつ徹底的に検証してほしい。給付金や融資といったコロナ名目の経済対策は適切だったのかどうかも調べるべきだ。感染症有事への弱点を総ざらえし、次なるパンデミック(世界的大流行)に備えたい。