[社説]反スパイ法は中国離れを広げるだけだ - 日本経済新聞
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[社説]反スパイ法は中国離れを広げるだけだ

中国でスパイ行為を摘発する改正「反スパイ法」が7月に施行される。当局が「国家の安全と利益」に関わると判断する動きを幅広く摘発できるようになる。

スパイの定義が広がれば、在中国の外資系企業で働く外国人の安全に影響が及ぶ。対象拡大は国境をまたぐ経済活動を停滞させ、外資の中国離れを広げるだけだ。

今回の改正では、国家の安全や利益に関わる文書、データ、資料、物品の窃取や提供をスパイ行為の定義に加えた。一見、具体的にみえるが、肝心の国家の安全や利益に関わる範囲は、依然として不透明なままである。

恣意的な運用も可能だと指摘されてきた「その他のスパイ活動」というあいまいな定義も維持した。当局が幅広く解釈できる余地は残されたままだ。インターネット事業者にスパイ摘発への協力を義務付けた措置とあわせて考えれば、SNS上の言論、中国と国外とのやり取りも取り締まりの対象になりうる。

アステラス製薬の現地法人幹部が反スパイ法違反容疑などで拘束された問題で、日本政府は解放を要求している。中国は呉江浩駐日大使が4月28日の記者会見で強調したように「不法なスパイ行為」と決めつけるばかりで、解決への道はみえない。

一部の日本企業は安全を重視する観点から中国出張を見合わせている。このままでは、中国から他国に事業・生産拠点を移す動きが加速しかねない。負の連鎖を断ち切るためにも、即時解放を重ねて中国に求めたい。

習近平国家主席をトップとする中国の政府は、国家安全部門の権限を一貫して強化している。今回の改正では、同部門の判断で問題だとみる人物の出入国を禁じることができると明記した。

国家安全の概念を幅広くとらえる流れは、日本人を含む外国人、外国人と付き合いのある中国人の行動に枠をはめる。日本の外交官と食事中に拘束された中国主要紙の論説幹部経験者がスパイ罪で起訴された例も、そのひとつだ。

日本の大学に留学中だった香港の女子学生が、日本での言論を理由に帰郷の際に逮捕された事件も、国際的な波紋を広げている。香港国家安全維持法の域外適用の例だ。域外での言論監視は、日本など民主主義国家で保障されている言論の自由を侵害する行為である。断じて容認できない。

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