[社説]学術会議の改革は原点回帰を
政府は日本学術会議法改正案の今国会への提出を断念した。会員の選び方などを変える内容に学術会議が猛反発し、岸田文雄政権はいったん矛を収める政治判断をした。強行していれば決裂が避けられず、見送りは妥当といえる。
この仕切り直しを好機として、政治とアカデミアが学術会議の役割や在り方を徹底的に議論し、改革につなげていくべきだ。
2年半に及ぶ対立の発端は2020年秋、当時の菅義偉首相による会員候補6人の任命拒否だった。問題はその理由を一切明かさなかった点につきる。岸田首相に改めて納得のいく説明を求める。
改革を巡って学術会議は従来通り国の機関であり続けながら、人事面で完全な独立性を求めてきた。一方、同会議の体質に強い不信感を持つ自民党の保守派は、国が一切口出しできないのはおかしいと主張してきた。
米科学アカデミーや英王立協会など、欧米では民間の運営形態をとりながら政府からお金をもらっている。こうした事例を参考にすれば、必ずしも国の機関に位置付ける必要もない。民間化は一つの選択肢といえる。政府や国会への助言・提言を拡充し、助成する仕組みを考えてみてもいい。
改めて学術会議の役割を明確にする必要がある。国民からみると一体何をやっている機関なのかよくわからない。新型コロナウイルス禍でも存在感はなかった。
不確実性の高い現代社会では政策を決定する際に科学的知見をどう活用するかが重要になっている。未知の感染症だけでなく、地球温暖化や人工知能(AI)、原子力を進める上での「核のゴミ」問題など、自然科学だけでなく人文・社会系も含めた「総合知」の提供を学術会議に期待したい。
専門家の意見を聞く場である各省庁の審議会や総合科学技術・イノベーション会議との役割分担も明確にすべきだ。科学者の顕彰を担う日本学士院や研究費の助成機関である日本学術振興会との一体運営も検討する必要がある。