岸田首相と韓国の尹大統領による共同記者会見要旨
岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による7日の共同記者会見の要旨は次の通り。
【冒頭発言】
尹氏 首脳間のシャトル外交の本格化は意義深い。普遍的価値を共有する韓日両国が安全保障、経済、グローバルアジェンダに対応する過程で緊密に協力していくべきだと改めて一致した。韓日の関係改善が両国国民にとって大きな利益となってかえってくると確認し、今後もさらに高いレベルへ関係を発展させていくと合意した。
両首脳は安保や経済の分野の協力が本格的に稼働していることを歓迎した。未来世代の交流拡大のために多大な関心を傾け、必要なことを継続していく。人的交流が増加傾向である点を勘案し、都市部のみならず地方の航空路線も新型コロナウイルス禍以前の水準に回復できるよう努力することにした。
韓国の半導体メーカーと日本の優秀な素材メーカーがともに強固な半導体サプライチェーン(供給網)を構築するよう協力強化で一致した。宇宙、量子、人工知能(AI)といった先端科学技術分野で共同研究などの推進について議論した。
北朝鮮の核・ミサイル開発が全世界の平和と安定に重大な脅威だとの認識を共有した。主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)にあわせた首脳会談など韓米日3カ国の首脳間の緊密な意思疎通と協議が極めて重要だ。
「スーダンの邦人退避、協力に感謝」
首相 3月に尹氏を東京にお迎えしてから、かくも早くにソウルを訪問し、シャトル外交を本格化できたことをうれしく思う。スーダンにおける邦人退避に際し、人命がかかる困難な状況のなかで韓国から多大な協力を頂いたことに感謝申し上げる。
3月に尹氏が示した決断力と行動力に改めて敬意を表したい。日韓関係の強化にかける強い思いを私も共有している。日韓の対話と協力は2カ月足らずの間にダイナミックに動き出した。日韓中プロセスについても議長国の韓国の取り組みを支持すると伝えた。
(東京電力福島第1原子力発電所の)処理水の海洋放出に韓国国内で懸念の声があることはよく認識している。韓国の方々に理解を深めていただくため今月、福島第1原発への韓国専門家の現地視察団の派遣を受け入れる。自国民、韓国国民の健康や海洋環境に悪影響を与えるような形での放出は認めることはない。
1998年10月に発表された日韓共同宣言を含め歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる。この政府の立場は今後も揺るがない。
(元徴用工問題について)多くの方々が過去のつらい記憶を忘れずとも未来のために心を開いてくださったことに胸を打たれた。私自身、当時厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ。
日韓間には様々な歴史や経緯があるが、困難な時期を乗り越えてきた先人たちの努力を引き継ぎ、未来に向けて尹氏をはじめ韓国側と協力していくことが私の責務だ。
地域で北朝鮮の挑発行為が続き、力による一方的な現状変更の試みもみられるなか日米同盟、韓米同盟、日韓、日韓米の安保協力で抑止力と対処力を強化する重要性で改めて一致した。北朝鮮ミサイルデータのリアルタイム共有についても議論の進展を歓迎した。G7広島サミットの際に日韓米首脳会談を開催しさらに議論を深める。
我々のシャトル外交は続く。2週間後には広島で尹氏を迎える。被爆地・広島で平和記念公園を訪問し韓国人原爆犠牲者慰霊碑に一緒に祈りをささげる。日韓関係改善の動きが軌道に乗った。日韓関係強化の機運を確かなものにしていきたい。
【質疑】
――米韓首脳がワシントン宣言を採択し「核協議グループ」の創設で合意しましたが、日本の参加に関する議論は。処理水の海洋放出への懸念は払拭できますか。
尹氏 韓日両国は北朝鮮の核の脅威にともにさらされている。いつにも増して安保協力が重要な状況だ。ワシントン宣言は韓国と米国の2国間をベースに合意した。日本の参加を排除することはない。
軌道に乗って日本も米国との関係で準備が整えられれば、いつでも共に協力し合える。処理水について首相は韓国国民の健康と安全に対する懸念を払拭するために努力すると約束した。
――福島の水産物の安全性について韓国側と話しますか。
首相 6月には国際原子力機関(IAEA)の最終報告書が取りまとめられる予定だ。しっかり受け止めたうえで日本は国内の手続きを進めていきたい。その際にも韓国側とは意思疎通をはかる。韓国の多くの皆さま方の懸念や不安にも応えていく努力を続けていきたい。
――(自衛隊機への)レーダー照射問題をはじめとする懸案に関しどう伝えましたか。米韓の「核協議グループ」は日韓や日米韓の枠組みに影響しますか。
首相 幅広い分野について胸襟を開いて意見交換した。双方の関心事項や懸案についてお互いの立場に基づき、議論した。詳細は外交上のやりとりで差し控える。
核協議体の創設を含め米韓の間での拡大抑止の強化に関する議論、日米間での拡大抑止協議や外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を含めたハイレベルの協議を通じ、拡大抑止強化に向けた取り組みが相まって地域の平和と安定に資する。引き続き日米、日韓、日韓米で緊密に連携したい。
「元徴用工解決策、方針変えず」
――元徴用工問題への対応には韓国国内で反対の声が根強いです。方針は今後も堅持しますか。
尹氏 政府の方針は変わらない。発表したのは1965年の日韓請求権協定、2018年の韓国最高裁の判決を同時に満たす折衷案として法的完結性を持つ唯一の解決策だ。
過去の歴史が完全に整理されていないからといって懸案と未来協力のために一歩も踏み出すことができないという認識からは脱しなければならない。
いま韓日両国は北東アジアの厳しい安保状況に直面している。首相と私が共有する考えでもあるが重大な歴史的な転換期に置かれている。価値を共有する日本と韓国が協力し、共同利益を追求し、国際社会で共同のリーダーシップを構築することが重要だ。